桃の節句といえば、甘酒をはじめ菱餅、ひなあられといった定番のお菓子がつきものです。
さらに料理では、はまぐりのお吸い物。はまぐりは平安時代には「貝合わせ」という遊びに使われていました。
対になっている貝殻以外とは噛み合わないため、仲の良い夫婦の象徴ともみなされており、桃の節句にはまぐりを食べるのは、将来、相性の良いお相手と巡り合いますように、という願いも込められています。
そしてもうひとつ、定番といえるのが、ちらし寿司です。もともと桃の節句には関連がなかったものの、見た目の華やかさや、さまざまな春の旬の食材を取り入れられるとあって、いつしか一般化しました。
その一方でちらし寿司は、地域によってお祝い事やおめでたい日に食す「ハレの日」の料理として親しまれてきた歴史もあります。
たとえば、岡山の郷土料理、ばら寿司。腰が曲がるまで健やかでいられるよう、縁起物として知られるエビ、さらにアナゴやサワラ、ままかりなど瀬戸内海の魚介類をはじめ、穴が開いていて将来を見通せると縁起もののレンコンなどが入っています。面白いのは、その成り立ち。江戸時代、備前の国では贅沢禁止令として「食事は一汁一菜」と定められました。
でも、お祝いの日にはご馳走を食べたい心理は、今も昔も同じ...そこで酢飯にさまざまな具を混ぜ込んだものを「一菜」として食べたことで、郷土料理として定着したそうです。まるで一休さんのトンチのようですね。
ちなみに、ばら寿司は京都県北部の丹後地方でも郷土料理として親しまれています。こちらは、煮付けにしたサバを細かくほぐした「おぼろ」が入っているのが特長です。
昔は若狭湾でよくサバが水揚げされ、それを京都まで運ぶ道は「鯖街道」と呼ばれていました。今では缶詰のサバを用いてつくることが一般的だそうです。
横の写真は、長崎県大村市の郷土料理、大村寿司です。かつてお殿様が敵に攻め込まれ、この地を追われたのですが、やがて反攻に出て帰還。喜んだ人びとは、お祝いのために食事を振舞おうとするも食器が足りず、やむなく木箱を使い、刀で四角く切った「押し寿司」に仕立てたことが由来です。ケーキのような見た目で、ハレの日にふさわしい料理ですね。
ぜひ皆さんのご家庭でも、春めいたちらし寿司で食卓を飾ってはいかがですか?